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ナチュラルワインの人気が高まる中で、よく聞かれるようになったのが「亜硫酸塩無添加ワイン」という表示。しかし、これを見て「添加物が入っていないから安全」と感じる方が多い一方で、実はワインの品質にとって重要な役割を果たすことをご存じでしょうか?

今回は、ナチュラルワイン愛好家ならぜひ知っておきたい、ワインに悪影響を及ぼす酵母「ブレタノマイセス」(通称ブレット)と、それを防ぐ 亜硫酸塩 との関係についてご紹介します。
ワインの風味を損なう酵母「ブレット」とは?
ワインの醸造に欠かせない酵母。通常は、アルコール発酵を担う「サッカロミセス・セレビシエ」などが活躍しますが、中には望ましくない働きをする酵母も存在します。
その代表が ブレタノマイセス(Brettanomyces) という酵母。

特に、「B. anomalus」や「B. bruxellensis」という種はワインの中の糖分を好んで活動し、以下のような不快な臭いを発生させることがあります
- 濡れた犬のような臭い
- ネズミの尿臭
- 馬の汗や家畜小屋のような香り

このような 欠陥臭(オフフレーバー)は、ワイン本来の魅力を台無しにしてしまうのです。
なぜブレットが発生するのか?
活発化する条件とは?
ブレットの厄介な点は、その生命力の強さ。条件が揃わない限りはじっと潜伏していますが、残糖分が2g/L以下でも活動を始めるという恐るべき能力を持ちます。
また、ブレットは以下の場所によく潜んでいます:
- 木樽の内部
- タイルの隙間や床のヒビ
- ワイナリー内の空気、虫や持ち込まれた資材など
一度ワイナリーに入り込むと完全な駆除は難しく、衛生管理が不可欠になります。

特にリスクが高いのはナチュラルワイン
ナチュラルワインは、自然発酵を取り入れ、酸化防止剤である「亜硫酸塩(SO₂)」を添加しないことが多いです。このため、ブレットが好む環境が整いやすく、特に赤ワインや木樽熟成の白ワイン(例:シャルドネ)では発生リスクが高まります。
さらに、「マロラクティック発酵(乳酸発酵)」を経たワインも酸のバランスが整っている一方で、ブレットが活性化しやすい環境になってしまうことも。
<参考> ナチュラルワインとは? イタリア自然派ワインの魅力
亜硫酸塩は、絶対悪?
「無添加ワイン」や「亜硫酸塩フリー」という言葉がマーケティング的に魅力的に見える昨今ですが、亜硫酸塩はワインの酸化を防ぎ、雑菌や不快な酵母の発生を抑制する重要な役割を持っています。
また、亜硫酸は酵母がアルコール発酵する過程で多少(10mg / L前後)発生するので基本的にはどのワインにも含まれています。ただし、ワインの中に含まれる亜硫酸表示義務は10mg / L以上からとなっているので、亜硫酸が添加物として記載されていない場合があります。
つまり、自然な状態で亜硫酸塩を全く含まないワインはほぼ存在しないということになります。

また、亜硫酸塩は適切な量を使用することで、品質の安定性や安全性を保つことができる物なので、一概に悪いものということは出来ません。
食品を例に取ってみると、スーパーでよく見るエビやカニなどの魚介類を冷凍したものや、乾燥させたナッツ類の詰め合わせにも亜硫酸が含まれていますが、これらの亜硫酸量はワイン1本に含まれる亜硫酸よりもずっと多いことはあまり知られていません。
ブレット対策にはどうすればいい?
残念ながら、一度ブレット臭が出てしまったワインは、元に戻すことはほぼ不可能です。ただし、以下のような対策によって被害の拡大を防ぐことは可能です:
- 汚染された樽の廃棄
- ガンマ線照射による樽の殺菌(意外と安価で済みます!)
- 醸造設備の徹底的な洗浄と衛生管理の徹底
生産者の努力を知ると、1本のワインがもっと愛おしくなる!
自然派ワイン、ナチュラルワインを選ぶとき、「無添加」「亜硫酸塩無添加」の表示に安心するのではなく、生産者の哲学や衛生管理体制を理解することが、より豊かなワイン体験に繋がります。

目には見えない「ブレット」との戦いの裏側には、日々衛生に気を配り、品質の安定を願う造り手の努力があります。
そんな背景に思いを馳せながら、一杯のワインをじっくり味わってみませんか?